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東京地方裁判所八王子支部 昭和25年(ヨ)98号 判決

申請人 全日本金属労働組合東京支部富士工業三鷹分会

右代表者 執行委員長

被申請人 富士工業株式会社

一、主  文

本件仮処分申請はこれを却下する。

本件申請に関する費用は申請人の負担とする。

二、事  実

申請人代理人は被申請人は別紙目録記載の申請人組合組合員に対し、同目録各名下金額欄記載の賃金を支払わなければならない旨の裁判を求め、その申請の理由として陳述した要旨は

一、被申請人会社は自転車、スクター等の製造修理販売を目的とする株式会社で、肩書地に三鷹工場を、群馬県太田市に太田工場を置いており、申請人組合は被申請人三鷹工場の従業員をもつて組織する労働組合で、別紙目録記載のものは、いずれもその組合員である。

二、被申請人会社の従業員の賃金については、昭和二十二年十一月から施行された賃金規則によつて定められていたが、被申請人会社はこれを改正し、新賃金規則を昭和二十五年七月二十五日から実施した(申請人組合はこの改正は無効だと考えているがこゝでは一応被申請人会社の実施するところに従つて請求する)右新賃金規則によれば、その第三条に「定期的に支払う賃金の締切期間は一日から月末迄の一ケ月間とし、その支払日は翌月十日とする、但し一日から十五日までの分については基準内賃金に限り二十五日に概算払を行うものとする、支払日が休日にあたるときはその翌日とし、天災地変その他已むを得ない事由のある時は変更する」ことがあると定められている。

三、ところで申請人組合はかねてから被申請人会社に対し賃金ベース一万二千円を要求していたが、その要求貫徹のため同年八月十五日午前〇時からストライキに入つた。ところが被申請人会社は翌十六日午後六時から工場閉鎖を断行したので、同時に申請人組合はストライキを解除し、それ以降継続的に申請人組合組合員は、被申請人会社に対し労務の提供をなしているに拘らず、被申請人会社は申請人組合組合員が同日午後六時から同月末日までの間就業したならば支払を受け得べき賃金の額(別紙目録記載欄の通り)即ち同年九月十日に支払を受け得べき金員を支払わない。

四、以上の如く申請人組合組合員は右賃金の支払を受けられないでいるので、賃金請求の訴を提起しようとしているが、今日の経済状態で賃金をもつて唯一の生活の基礎としている労働者が、賃金の支払を受けられない時は後日回復することの出來ない損害を蒙るに到るので本件申請に及んだ次第である。

被申請人の抗弁並びに答弁に対し次の通り答えた。

一、申請人組合の当事者適格について

労働組合は労働組合法第二条同第六条に明記してある通り、労働組合の名において、組合員のためにその経済的地位の向上について使用者と交渉する権限を有するものであるから、明らかに実定法上管理権を附与されているのであるから労働組合は法定的訴訟遂行権をも有するものであるが、仮りにそうでないとしても組合員が特別の意思表示をしない限り、訴訟行為も含めて、組合に対して権利の実現をも委せたと言うべきであつて、少なくとも組合の任意的訴訟は認められるべきである。

二、本件工場閉鎖について

本件工場閉鎖は被申請人会社の組合に対する攻撃的な工場閉鎖であつて、本來使用者の争議行為の範囲を越えた不当な争議行為である。仮りにそうでないにしても、被申請人が本件工場閉鎖の理由とするところの所謂「工場は正に組合の支配下にある」「賠償工場管理上責任を負い得ざる事態である」という事実は何等存しない。又以上いずれも理由がないとしても、本件工場閉鎖は八月十六日に始り被申請人会社が本件工場閉鎖を解除したと称する同年十月二十六日まで約五十日の長期に亘つている。かゝる長期の工場閉鎖は労働者の生存権を侵す不当なものであるから、被申請人は本件工場閉鎖期間中の賃金支払義務がある。

三、賃金規則について

申請人組合と被申請人会社との間に現在労働協約が存在しないことについては争わないが、労働協約がないからといつて被申請人会社は、その従業員である組合員に賃金を支払わなくてよいという理由はない。賃金というものゝ性質からして賃金協定が成立しないからと云つて全然賃金を支払わなくていゝと云うべきものではない。労働条件の典型である賃金ベースは労働協約の余後効としてなおその効力を存するので新賃金ベースが決らなければ旧ベースによるべきである。又本件の場合は八千五百円までは被申請人も承諾したのであるから、少なくともこの範囲に於ては合意が成立していると云うべきである。而して申請人は右二つのうちのいずれよりもそれ以下の金額を請求しているのである。(疏明省略)

被申請人代理人は主文同旨の裁判を求めその理由として陳述した要旨は

(一)  申請人主張の申請理由一、記載の事実は認める、同二、記載の事実は認める(但し昭和二十二年十一月から施行されていた賃金規則は被申請人会社の前身会社である富士産業株式会社の三鷹工場従業員に対する賃金規則である)。同三、記載の事実中申請人組合組合員が被申請人会社に対し工場閉鎖後労務の提供をなしている点は否認し、その余の事実は認める。同四、記載の事実は否認する。

(二)  本件申請は組合員の賃金支払請求であるが、従業員の賃金請求権は個人たる従業員と会社との間の労働契約上の権利であり労働組合は、実定法上労働契約に基く請求権の行使につき何等訴訟管理権を附与されていないのであるから、申請人組合は組合員の賃金請求権を訴求し得る当事者適格を欠如している。殊に申請人組合と被申請人会社との間には労働協約が存しないのであるから、協約に定める義務を組合が会社に履行すべきことを要求し得べき限りでない。従つて組合が従業員たる組合員に対して負担する賃金債務の履行を訴求し得ないことは当然というべきである。

(三)  仮りに申請人組合に当事者適格があるとしても、被申請人会社は申請人組合の昭和二十五年四月以降会社の経営を顧みない不当な賃金要求を固執し、絶えずストを行う他、職場離脱を繰返したゝめ生産は減退の一途を辿り、経営が苦境に陥り申請人組合の組合活動はその範囲を遠く逸脱した行為が連続され、会社幹部に暴行、脅迫、工場長の排斥等の事例が続出し、延いては組合の集団的違法行為が会社所有の生産手段に対する支配にまで及ばんとする虞れがあつたのみならず、賠償施設保全の必要もあり、被申請人会社は已むを得ず組合のストライキに対抗して本件工場閉鎖を行つたものであつて何等違法はない。そうして近代企業に於ては使用者は生産手段を所有し、それを所有することによつて個々の労働力を組織づける、即ち大量的な労働力を支配する立場にあり、労働組合が右の使用者の労働力に対する支配力に介入しようとして、組合が集団的な労働力を結集して、これに介入する過程が団体交渉であり、争議行為である。使用者の労働力に対する支配に食込み、労働力が総体として使用者の支配を離脱するのが同盟罷業であり、組合の支配が使用者の支配に浸透するのを防ぐために、使用者が労働力を総体として生産手段から遮断するのが工場閉鎖である。従つてこの工場閉鎖の合法性は労働関係調整法第七条の予想するところであり、又労働組合法第一条の当然の帰結でもある。工場閉鎖中と雖も従來の雇傭関係は継続しているのであるから、労働契約上の義務の不履行の問題を生ずるけれども、これは争議行為の結果にすぎず、争議権が承認される限り不履行の責任は解除せられなければならない。このことは同盟罷業、ストライキの場合の労働者の個々の労働契約上の義務不履行の責任が解除せられるのと同様である。従つて申請人の云うように労働者の労働提供を拒否した工場閉鎖中に賃金支払い義務が会社に当然あるということはいえないから、申請人の本件仮処分申請はその理由がない。

(四)  仮りに前記(一)乃至(三)の理由がいづれもないとしても、申請人組合と被申請人会社との間には労働協約がなく労働組合が協約上の義務履行を会社に要求し得る余地は全然存しない。そして賃金については組合がその団体権限に基き現に会社と争つていたところで、未だに妥結しないので已むなく会社としてはその責任において、昭和二十五年七月二十五日賃金規則を実施した。従つて労働契約としては当然に右賃金規則に基く賃金債権債務が組合と会社間に発生している。然し組合としては右の賃金ベースを認めず、会社とそのベース引上げにつき交渉を続けていたものであるから、会社との間に賃金ベースにつき妥結を見ない以上、組合としてはその名に於て組合員各自に対する労働契約上の権利の請求を訴求し得る何等の根拠も存しないのである。殊に本件申請に於て、組合は会社の前記賃金規則は無効だと主張し乍ら、これに基く賃金請求権を求めようとするものであつて甚だしい矛盾に陥つている。即ち組合員個人が一応賃金規則による賃金請求権を訴求し、組合が会社との間に妥結した賃金ベースによつて、右賃金請求権の内容を引上げ又は不履行の場合に、その履行を請求するという建前は考えられるけれども、組合の否認する賃金規則によつて組合が各組合員のために、賃金債権の履行を訴求することは論理的矛盾であるからこの点に於て申請人の本件仮処分申請は当然却下せらるべきであると述べ、

(五)  尚工場閉鎖が相当長期に亘るの已むなきに至つたのは、外部勢力の加担による組合の本件工場奪還等の気配が濃厚であつたゝめであるが、これは本申請範囲外であると附陳した。(疎明省略)

三、理  由

申請人主張の申請理由一、記載の事実は当事者間に争いがないところである。

そこでまず申請人の本件申請についての当事者適格について考えてみるに、労働組合は使用者に対し組合を構成する組合員のためにその労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とし、組合員保護の団体である。従つて会社と組合との間に労働協約がなくとも会社と組合員との間に雇傭契約があれば、組合はその職務については組合員個人に属する権能の実現を図ることもまた組合自身の利益であり、その権能に属するところであるから、この権能に基いて労働組合が組合員に代り使用者に対し賃金請求権保全のため仮の地位を定めることを目的とする本件仮処分の申請をするについても、申請人組合はかゝる適格を有するものと解すべきであるから被申請人の当事者欠缺の主張は採用できない。そこで本案について考えてみるに、被申請人会社の従業員の賃金については従來昭和二十二年十一月から施行された賃金規則(但し同賃金規則は被申請人会社の前身富士産業株式会社の賃金規則であることは弁論の全趣旨によつて争いなきものと認める)によつて定められていたが、被申請人会社はこれを改正し、新賃金規則を昭和二十五年七月二十五日から実施し、その第三条によれば「定期的に支払う賃金の締切期間は一日から月末までの一ケ月間とし、その支払日は翌月十日とする。但し一日から十五日までの分については基準内賃金に限り二十五日に概算払を行うものとする、支払日が休日にあたる時はその翌日とし、天災地変その他已むを得ない事由のあるときは変更する事がある」と定められていること及び申請人組合は予てから被申請人会社に対し、賃金ベース一万二千円を要求しており、その要求貫徹のため同年八月十五日午前〇時からストライキに入り被申請人会社はこれに対抗し、翌十六日午後六時から工場閉鎖を断行したので、申請人組合は直に前記ストライキを解除したことは当事者間に争がない。そこでまず被申請人会社が本件工場閉鎖を行うに至つた経緯について考えて見るに成立に争のない疏甲第二十四号の二、同第二十五号の二、同第二十六号の二、三、同第二十七号の一、二(但し後記認定に反する部分はこれを措信しない)と疏乙第四十号、同第四十二号、同第四十五号、同第四十六号を併せ考えれば、被申請人会社の前身富士産業株式会社は発足当時は業績あがらず、昭和二十一年九月頃になつて漸く従業員七百八、九十名を使用し、当時は自動車部品の下請、進駐軍の食器、製粉機その他自動鋸、スクーター等の製作をしていたが、同年秋頃から昭和二十三年八月頃までにかけてインフレーが昂進したゝめ、三鷹工場に於てもその都度賃金値上げの問題が起つたこともある。然し昭和二十四年始め頃までは生産が順調にいつておつたゝめ別に賃金遅配というようなことも殆んどなかつた。然るに同年始め頃から日本経済の様相は一変し生産は上つても売行が悪く製品を現金化し得ない徴候が現れ始め、偶々同年四月頃他から農業用小型発動機の大量註文があり、会社は月産一千台の計画をたて、組合は右計画に協力して作業を進捗していたところ、同年六月十日頃になつて突然註文主から前記発動機の註文が解約され、製作した発動機がストツクする等のことがあり、同年七月頃からは賃金の遅配が始まり、組合は会社に対して度々遅配解消を要求し、その後越年資金支給の要求をもしたに拘らず会社側から満足した回答が得られなかつた。そこで組合員は各職場毎に工場長並びに各課長個々人に対していろいろしたが、その際組合員は工場長や各課長の室に最初は少数で入室し、最後には組合員全員が集つて來て強硬に右要求を主張し、若し右要求が入れられない工場長や課長は辞めてしまえ、などといつて工場長並びに課長を吊上げたゝめ、各課長は昭和二十四年十一月頃には辞表を提出するに至つたが、その後社長から再建案を提示し、慰留され又旧会社と組合とのその後の団体交渉の結果、昭和二十五年二月十四日旧会社が訴外興業銀行から四千百万円の融資を受け、越年資金並びに賃金遅配は同年三月末日までに支払うことゝして一応解決したゝめ、さきに辞表を提出した各課長は辞表を撤回した。又二月末までの賃金ベースは表面は銀行に対する関係上七千八百九十円としていたが実質は九千円ベースであつた。ところが同年三月以降の賃金ベースは決つていなかつたので、同年四月七日組合はその大会で主食、地方税及び一般物価の値上りによる生活費の膨張のため、賃金ベース一万二千円の改訂を決議し、之に基いて会社に対し賃金一万二千円の要求をなしたが、会社の経理状況は当時非常に苦境にあり、これがため組合側の右要求に応ずることはできなかつたので、一応三月、四月分は暫定手取りを一万百円と協定して支払つたが、組合側はあくまでも右一万二千円ベースを主張して一歩も引かなかつたゝめ、旧会社側は再び五、六月分に限り暫定措置として九千円ベースの他に特別報償金三千円を支払うことにしたが、その際組合側は右報償金を支給してくれゝば生産をあげるといつていたので、当時の会社の経理状態としては非常に苦しかつたけれども、已むを得ず生産品以外の遊休資材を売却してこれが支払にあてた位であるが、生産は予想の半分も上らなかつた。そして同年七月十三日旧会社は解散して新しく被申請人会社が発足することになつたので、組合は会社に対し三鷹工場一万二千円、太田工場一万円の要求書を提出したが会社は資本金八千万円であるのに、旧会社の債務一億数千万円を承継して発足後未だ日が浅く生産も挙らないため、金融機関たる銀行の態度も従來と変り、信用も今までのようでないので到底右要求に応ぜられないので、同年七月十五日会社は組合に三鷹工場は八千円、太田工場は六千七百円ベースにする旨申入れたところ、組合はこれを拒否したので会社は諸般の状況を慎重検討した結果、已むを得ず同年八月二日三鷹工場八千五百円、太田工場七千円に譲歩したが、組合側はこれも拒否し、その間組合側は当時の工場長十川次郎が工場に入るやサイレンを鳴らして就業時間中組合員が工場の周囲に集り、同人を取囲み或は工場長室、又はその隣室に組合員二、三十名ないし百数十名が集り、工場長に対し「ふざけるな」「ねぼけるな」「馬鹿やろう」「禿なにを言うか」などと罵倒し、相当長い時間吊上げをなし「又一万二千円を支給しない工場長は辞めてしまえ、もしできなければ重役を連れてこい」などゝ申しけ、更に工場長の私宅に組合員多数で押しかけなどし、工場長が工場内で職務を遂行出來ないようにし、同人が工場外(工場附近の森山荘)で指揮をとればそれを非難し同人を排斥し、又同年八月九日同人及び当時の総務課長城所和一が会社の命令で工場の重要書類を搬出しようとしたところ、これを阻止し搬出させなかつた。そして又前記工場長のみならず各課長に対してもその頃工場長同様屡々吊上げがなされていた。ところで組合は前叙の如く同年八月九日工場長と城所課長が工場の書類を取り出しに來たので組合員等は組合の一万二千円ベース要求に対する会社側の回答は人員整理だということを察知し、組合側では同年八月十五日午前八時の組合大会の決定に基いて同日午前零時にさかのぼつて無期限ストライキに入つた。一方会社側は前叙の如く工場関係書類持出しが不可能になつたゝめ更めて同月十五日午前四時半頃会社取締役小谷武夫、総務部長上野総一、十川工場長等十二、三名の会社側のものが再び書類搬出のため工場に赴いたところ、組合員に入場を阻止されたがこれを排除して入場し同工場から脱出しようとしたところ、組合員等はスクラムを組んで再びこれを阻止したゝめ、十川工場長と同行の生産部課長山本弘は組合員のため捕えられ無理矢理に工場内え連行され、そこで組合員多数が同人等を取囲み「お前たちが我々を敵に廻してやるとはけしからん、我々の言うことを聞かなければ叩き殺す」などゝ申し向け、同人等を工場内の所謂組合ホール舞台上に立たせ惡口をあびせ、同所において約四、五時間吊上げをなしたが、なお山本課長は組合員に捕えられた際約一週間の治療を要する挫傷を負わされた。そこで会社は組合側が会社発足前後を通じ八月十五日までに八回に亘つてストライキを行い、その間前述の如く殆ど連日吊上げをしたり、工場長排斥をなす等の暴状が屡々発生したゝめに工場長、課長の指揮命令は殆ど行われず、工場内の秩序は紊乱し、実際には生産管理に等しい状態にあり、生産は減退したゝめに企業の経営維持が到低不可能となつたのみならず、賠償施設の保守保全の必要もあつたので、已むなく右ストライキに対抗するために八月十六日午後六時を期して工場閉鎖を行うに到つたことが一応疏明され、右認定に反する申請人提出の疏明方法は未だたやすく措信できない。

そして申請人は工場閉鎖は本來使用者の争議行為の範囲を超えた不当な争議行為であると主張するが、工場閉鎖は使用者側の争議手段として一般に認められているもので、使用者はその資本を遊休せしめることによつて積極消極の甚大な損害を覚悟せねば容易にこれを断行し得ないものであるから、使用者が争議行為として工場閉鎖を行つても別に争議における労資対等の原則が破れるとは考えられないから、結局本件工場閉鎖は適法に行われたものといわなければならない。従つて申請人の右主張は理由がない。次に申請人は又本件工場閉鎖は約五十日の長期に亘るもので、かゝる長期の工場閉鎖は許されるべきでない旨主張するので、この点について考えてみるに成立に争いのない疏乙第四十ないし第四十六号、同第四十九号、疏甲第二十五号の二、同第二十六号の三及び右疏乙第四十九号の記載からして真正に成立したと認める疏乙第四十七、四十八号を併せ考えれば前叙認定の如く会社と組合員間には賃金値上げについての争議は解決しないのに、会社が本件工場閉鎖を行つた後も組合員は依然組合事務所に行くと称して本件工場内に立入り、会社側の各課長を連日多数の組合員で取囲み、工場閉鎖前と同じように所謂吊上げをなしていたが、会社は会社本部が従來の組合事務所に近く正門からかなり離れていたのでは、暴行脅迫等の事実があつても外部から容易に察知できないため、已むなく正門わきの守衞所に臨時本部を設け、そこで各課長に事務をとらせていたが、八月二十二日頃組合は賠償機械の手入れとか私物持出しを理由に閉鎖中の工場の鍵を毀したり、窓から入つたり、或は釘付けにしてあつた扉を破壊して工場内に入り、又工場正門前にあつた会社の施していた木柵の鉄条網等も取除け外部団体のものを自由に入場せしめ、その間組合員は臨時本部にいた課長を窓から抛り出すとか或は多人数で工場外に担ぎ出し、入場を拒否する等の事実があり、又本件工場閉鎖後組合員は晝間は殆ど全員、夜間は七、八名から七、八十名位常時工場内に立入り、その他外部団体の全日本金属労働組合員、日傭労務者、共産党地区細胞員等が一日二、三十名から五十名位、特に九月十七日以降同月二十一日頃までは前記外部団体のものが千数百名入場して居り、本件工場は工場閉鎖中にも拘らず前叙の如く常に多数の組合員で占拠されていたこと及び九月二十一日以後も組合は再び工場占拠を企てる気配が濃厚であることが一応疏明され、申請人提出の疏明方法中右認定に反する部分は未だたやすく措信できない。従つて本件工場閉鎖は申請人主張の如くかなり長期に亘つているが、それは前記認定の如き事情によるものであるから、本件工場閉鎖が長期に亘つたという理由のみで直に右工場閉鎖が不当であるとはいえないし、申請人の本件請求は同年八月十六日以降同月末までの賃金であるから同年九月以降の工場閉鎖とは何等関係がない。よつて申請人の右主張も亦採用できない。してみれば前叙認定の如き理由でなされた本件工場閉鎖は適法な会社の争議行為として行われたもので、労働関係調整法第七条にいわゆる作業所閉鎖であることは明かである。そして使用者は労働者側の行為が前叙認定の如く正当な範囲を超えている場合に、これに対抗して已むを得ず工場閉鎖を行つた場合のみ適法に労働者の労務の提供を拒否することができるのであり、賃金は労働者の労務の提供に対する対価として支払われるのが原則であるから、適法になされた本件工場閉鎖に於ては被申請人に賃金支払義務はない。この事は双務契約上の信義の原則からしてもなおまた労働争議対等の原則からしても当然のことである。

以上の理由により申請人の本件工場閉鎖中(昭和二十五年八月十六日から同月三十一日まで)の賃金請求権を前提とする本件仮処分申請は爾余の判断をまつまでもなく、その理由がないからこれを却下することゝし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 相川米太郎 広瀬賢三 藤本忠雄)

別紙目録<省略>

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